SAI-Lab Blog

「ヒトとAIの共生」がミッションの企業、SAI-Lab株式会社のブログです。

読書録: 脳とグリア細胞 --見えてきた!脳機能のカギを握る細胞たち--

”脳とグリア細胞 --見えてきた!脳機能のカギを握る細胞たち--”を読了しました。

グリア細胞は、脳の中に神経細胞の10倍の個数存在してると言われているのですが、神経細胞とは異なった形で脳機能の発現に関与していることが分かってきました。

今回紹介する本は、グリア細胞の専門家、東京薬科大学の工藤佳久先生の著書なのですが、グリア細胞の脳機能への関与に関して包括的に書かれていて、大変興味深い本です。

グリア細胞の機能自体まだ未解明な部分も多いのですが、最先端の研究に触れることには大きな意義があります。

グリア細胞と人工知能の関連については、以前に以下の記事でまとめました。

blog.saiilab.com

今回は、本の方から特に気になった箇所をいくつかピックアップしてみたいと思います。

  • 従来、グリア細胞は神経細胞の支持や栄養の補給など単なる縁の下の力持ちと考えられてきたが、カルシウムイオン濃度計測により、グリア細胞が情報伝達において動的な役割を担っていることが分かってきた。
  •  グリア細胞の一種、アストログリアはニューロンと神経伝達物質を介して情報交換を行っている。
  • グリア細胞の一種、オリゴデンドログリアは複数の軸索にミリエン鞘を形成し、複数の軸索の伝達速度を同期している。
  • アストログリアで発生したカルシウム濃度の振動、カルシウムウェーブは他のアストログリアに伝播していく。この伝播速度は、神経細胞による伝達より比較にならないほど遅い。
  • 神経細胞へのカルシウムイオンの流入は、NMDA受容体を通して行われる。この受容体はマグネシウムイオン、グリシン、D-セリンなどの単純な分子によって開閉が調整される。D-セリンは、アストログリアから分泌される。
  • 神経細胞内に流入したカルシウムがシナプスの可塑性をもたらす。D-セリンはNMDA受容体に働きかけることでこの過程を強化する。
  • ニューロンの活動後、それを取り巻くアストログリアの活動が複数のアストログリアにエコーのように伝わり、活動部位全体に影響を与えている。

このように、グリア細胞は記憶を形成する一部であることが最近の研究により分かってきました。カルシウムウェーブなどは、ひょっとしたら意識の発現と関係しているかもしれません。

脳内のネットワークは、我々がこれまで考えてきたよりもずっと複雑で奥深いようです。